• 中川順平

「役者ほど素敵な商売はない」市村正親…新潮社刊


昨日の朝日新聞朝刊にこのタイトルの著書紹介が載っていた。私の会社の1階に

「柳泉書房」(元三宮にあった。店主の祖父が立上げ神戸でも有名な書店、垂水に移ってきたのが昨年。以来懇意にさせてもらっている)がある。店主に「今日新聞で見た、このタイトル入ってる?」に即答で、「電話あるかと思い用意してあります」と。


カバーをつけてもらい、秘かに読みだした。私のクセで本にアンダーラインを引いていく、昨日は板宿で稽古終え、帰りの電車の中から読み出し、帰宅し9時半に寝床に入りさらに読み出し、興奮して2ページ進めばしばらくその余韻に浸り、また同じように…、なかなか文もうまく読ませる市村氏の本だった。


何より、役者稼業に惚れ込んだだけに(現在70歳)、その歴史のなかで会った演出家やいろんな役者から学んだことを毎ページに書いてある。圧巻は劇団四季創立者浅利氏とのやりとり、さらに蜷川幸雄氏とのやりとり、役者としての主張などなど、随所に演劇、芝居、役者、演出のありようが彼なりの表現で出てくる。なんとも興奮本(芝居に関わってるものには)である。


少し紹介すると…「千本ノックをやってくれる演出家の方がありがたい」の件では、「ダメだしというのは決して怒られているのではなく、役者をよりよく伸ばしてくれるためなんです。へこんでしまう役者もいるけど、浅利さんや蜷川さんだっていい演出家はみんな千本ノックやります。「違う、声がちゃんとでていない」「違い、気持ちが入っていない」「違う、今度は入り過ぎ」「違う、声が枯れてきた、もう一回」…延々とつづく、どうすればいいかわからなくなってしまう、でもそれがあるからこそシーンが身体に入ってくるのです。(我々の稽古でも、まだ新人さん、小森演出にテンパッテ、どうすればいいかわかりません、考えてきます、と逃げ口を言う、むしろその場で何度も何度もダメだしを食らった方がヒントを得られるものなんだ。勉強勉強)あれだけしつこい職種というのも、他にないと思います。それも人のために、僕にはできません、と書いてある。市村さん、根っから役者なんですね。


若い時に、劇団道化座の代表、須永さんに聞いたことがあった。

劇団民芸、代表は宇野重吉、怖い演出で、芝居も超一流の役者さん、そこへ新人劇団員が入ってきた。研究生を2年やり選ばれて劇団員になるのだが、ある芝居に「日色ともゑ」という新人が抜擢されて稽古に初参加、その初日、下手から上手に何も言わず町人として通り過ぎるシーン、突然演出から「ストップ!、おい、そこの新人、何を考えて歩いてきた、台本ちゃんと読んだのかあ。もう一回だあ」、セリフも何もなく単に歩くだけのシーンであった。そして再度同じところから。すると上手にさしかかったときに「だめだ、もう一回」…それから、宇野重吉は具体的なダメだしをいうことなく、「ダメ、もう一回」「ダメだ、なんでできねえんだ、もう一回」「てめえ、芝居なめてんのか」…なんと昼から始まった稽古が、日が落ちて夜になっていた、みんなへとへと…これは事実の話で、日色さんという名女優はこうして創られていったそうで、またひょっとして創ったのでしょうかねえ、それだけの「ある魅力」を宇野さんは彼女に見つけたのかもしれませんねえ。


さらに市村さんはこうも書いている…昔、日下さん(武史、劇団四季創立者の一人)に教わったのは、芝居というのはキャッチボールだ、しっかり相手が投げるボールを見ていないと受け取れない、相手に向ってちゃんと投げ、そして投げられた人はしっかり取ってまた相手に返す、ゆっくり返すか、速く返すか、次の球はどこからどんな速さで来るか分からない、だから常に相手をみていないといけない、芝居では。だいたい、若いときは、自分のセリフのことばかり考えて相手のセリフのことなどろくすっぽ聞いてなかった…


きのう、帰りぎわ、演出から「順平さん、あの感じを最低ベースにしていろいろ考えてみてください」と言われた。そういわれたら、もっとやってこの芝居のクギやトンカチ、柱の一部に(前回のブログに書いた)しっかりなろうと思った。なりたいと思った。同時にオリジナルな「親分」に。



学生の頃、明けても暮れても芝居漬けの毎日だった、ほぼ5,6年。金なし、大学何度も留年、親父から二度と田舎の敷居を跨ぐな、家に帰るな、近所に恥ずかしい(徳島弁では『近所にめんどらし』)と言われた。でも創造する楽しみは何事にも代えられないほど楽しかったのだ。

今、その感覚ががんがん出ている、どこかに眠ってたんだなあと思う。いいもの見ると興奮する、「愛」を感じると泣けてくる、さりげなやさしさの言葉に反応してしまう。

この作品を読み終えて「ここには、愛が溢れてる」とデザイナーの小林くんがチラシにタイトルをつけてくれたように、この作品には、そのさりげな優しさが随所にでてくる、それが適確に表現できれば、大成功な舞台になるだろうと、秘かに思っている。


この市村さんの本、「借りたい」と云う人、貸しますよ。でも那須さん、返してね、まだ帰ってきていない本、何冊かあるような気がしますが…

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