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稽古で思う事

中川順平

たしかに、芝居のもつ効用はすごいと実感する。逆に難しいものでなく、楽しいのである。

今日の朝の「なつぞら」で、主人公の広瀬すずが言う「絵を描いているだけで、みんな忘れて楽しい」と。私のとってたしかに俳句創っている時間、その時間はなんとも楽しいし他のことを忘れる。気が付けば2時間たっていたなんとこともある。

 もう、20年ほど前の話、今は無き渋谷道玄坂のバー「カラカラ亭」、ここにはいろんな職業の顔が来ていた。ママが某女優、顔が広い。貧乏サラリーマン時代、よく飲ませてもらったのが、仕事で一緒だった青葉益輝さん。あの東京オリンピックポスターの総合的デザイン責任者の亀倉雄策さんの一番弟子である。

 ある日、「君は、小さいときからサラリーマンになりたかったのか?」と酔いの青葉さんが聞いてきた。「毎日ネクタイしめて、ぺこぺこ頭下げて、靴底減らして歩きまわるサラーマンにか?」と。私は一瞬睨み返して「じゃ、青葉さんは絵描きになりたかったんですか?そんなの金にならんじゃないですか」と返した。「俺か?そうや、俺は絵描きになりたかったんや。4つ5つの頃は、裏の路地で昏くなるまで地面に絵画いててなあ、母さんに『ますてる!ごはんよ~いつまで漫画画いてるの』って怒られた、毎日な。5歳ぐらいの時に飯より好きだったことが職業になった人は一番幸せな人やと思うなあ」と応えられた。意味することの深さにしばらく言葉もなかった。

そんなことを朝思い出した。先日の日曜日、いつものように板宿の立正寺での稽古、ここで稽古すると面白いようにいろいろアイデアがでる。やはり何かが憑いているのかなあ。

実は、前日の稽古であまりにも自分がはがゆくて、那須さんに当ってしまった。演出が「順平さん、どうも動きが整理できていなくて何してるかよくわからん」と言った言葉に反応し「那須さんが、ちょこまか動くからこの狭い場で行き場なくて自分もさっぱりどうしていいかわからん、それに那須さん、セリフもっとしっかり覚えて来い、そんな中途半端は迷惑や、同じとこで止るし、周りが稽古にならへん、緊張感も持続できん、みんな君のせいやないか!これっ」と。後悔立たずだが言ってしまったのだ。

そして翌日の稽古、那須さん、きっちりと自宅で夜おそくまで特訓したのだろう。セリフどころか、動きまで整理し、さらには新しい演技プランもきっちり作り、周辺への動きもスムーズ、なんとも腹のすわった役者だった。稽古の途中で「昨日、言いすぎたなあ」「いや、見事に当たっていたんで腹も立たず、いい刺激いただきました」と笑ってる。

稽古の帰り、9人で「わっしょい!」といういつもの居酒屋で、「一人1000円で帰ろう」という約束で飲んだ。わいわいと楽しかった。なんか学生時代の40年前の芝居ばかりやっていた頃に還っていた。そういや、昔、学生時代、金がないけど飲みたい、代表の須永さんといつも一緒に行って飲んだ。酒のあては「キャベツのみじんぎり50円分」それに「おじさん、マヨネーズ頂戴、ただやろ」…

芝居のもつ効用とはこういうものかも。役者がいつも溌剌とし、若いのはこういう刺激を常にうけているからだろうと。そういえば、この日、みんなから姉さんというわれてる福島啓子さん、「ええっ?ビール飲んでもう一杯、ハイボール飲むの?帰れるの?もう顔真赤よ」なんて言われながら楽しそうにはしゃいでる。西村さんも相好崩して終止笑いながら楽しそう。新人のちーちゃんも今日は少し稽古で演技を褒められて、ピッチもぐいぐい、最近までなかなか稽古来れずに、みんなに悪いなあと思っての今日の参加の神崎真くん、「あのおにぎり頼んでいいですかあ?」「ええ、そんなに稽古休んでるのに、オニギリ?」なんていじられながら、若い特権、厚かましくどんどん飲んで食べてる…

いい稽古ができた日の1シーン、これも効用かも。帰り、板宿のプラットフォームで反対側にいる劇団員に、即効劇をみせた、那須さんと二人で。

あっ、そういや観劇料、もらってないなあ (J)

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